IMG_20190514_183352


ストーリー&丁寧素晴らしいレビュー

「母という名の女たち」京マチ子

https://ameblo.jp/tron-12/entry-12285878430.html



1964東京オリンピックおよそ一ヶ月前公開のリアル東京。

ボロ屋と再開発工事がいたるところで、そこかしこに生きる営みが垣間見える。

この映画、このサイトでも散々絶賛してきました、京マチ子 主演。

大阪の女 (1958)」 ほかで、ぼくなりの彼女の素晴らしさは書いてきたつもりですし、数多ある出演作品の、ほんのわずかしか観られていないのですが、少しでも機会があればと常々思っていたところ、これ。神田・神保町シアター平日16時半の上映に滑り込み。80席あまりの劇場は、僕の整理番号60番台だったので平日にしては盛況です。

そして観賞後、劇場を出るときに携帯の電源を入れ直して飛び込んできたニュース。


京マチ子、死去。

Sanspo.com 記事


享年95。

こんなもの凄い、偉大な女優の死を、その活躍をぼくは数年前に気づいたばかりで恥ずかしくて仕方がないのですが、できることならもっともっと多くのみなさんにも知って欲しい。映画それぞれに、京マチ子という肉体が醸し出す別人が存在してて、その一種狂気じみた(決してエキセントリックに演じているわけではありませんが、役柄への取り組みは狂気という言葉でも甘い気がします)化けぶりは、今を生きる・演じる役者たちにも、また今を観る人たちにも感じて欲しいと思います。

IMG_20190514_193625

京マチ子、当時30歳。映画でもそう男たちに語ってますが、17歳の娘 桑野みゆき(1942-) がおりますので、本当は30代半ばか後半の設定。その設定がめちゃくちゃリアルに感じられるほど、くたびれてかつ艶ぽく、しかし決してもう若くない(今でこそ女30代は若いのですが、当時はね)諦めとあがきとプライドと現実が常に彼女の廻りに充満しています。

冒頭、場末のバーのホステス・京マチ子が、自分より若い同僚とつかみ合いの喧嘩をしています。原因はともにいい仲になった男をめぐってのこと。その男にうまく取り入って愛人にでもなれればしめたもんだからです。そこでなんとなく(ダラダラと)仲裁に入ったバーテンダー 小沢昭一 が京マチ子を連れ出して「おいしい話」をもちかけます。

「実力者(役者人生ほぼ悪役&エロの)小沢栄太郎 の妾3号にどうや?」

シミーズ姿で血汗まみれのつかみ合い喧嘩をしたばかりの京マチ子、転じてはんなりと着物姿で小沢栄太郎のもとへ馳せ参じ、即契約。ただし小沢栄太郎からは妾になる条件が提示されます。

「嘘をつかないこと」

17歳の娘がいることも黙ってマチ子様、その日のうちに抱かれ有頂天。だって、小沢栄太郎から月々多額の「お手当」とか、住処まで与えられるわけですから。


小沢栄太郎(晩年)

961fd26da37a2cfc5920b440363c52e9

仲介したバーテンダー・小沢昭一には裏がありました。

有頂天で帰ってきた京マチ子に向かって、

「紹介料として何割か寄越せ、さもなくば俺をヒモにしろ」

小沢昭一もエロエロとマチ子様に迫り、マチ子様ここは逃げたりして、小沢昭一切れて小沢栄太郎にほんとのことをチクって、あわれ妾3号は嘘がバレてご破算となりました。


小沢昭一。脇役だけにあらず、ここでも紹介した隠れた大傑作「競輪上人行状記 (1963)」監督 西村昭五郎 における主演も強烈演技すごかったです。

75caca24d1aa945fd0df3cb3077ed771

 ↑ 京マチ子デビュー作 「痴人の愛 (1949)」Wikipedia でも共演してます。


映画前半の20分くらいがそんなやりとりで、次の20分が、今度は奔放すぎる京マチ子のフツーに真面目に生きる近親者たちと、娘・桑野みゆきとの関係と、みゆきちゃん♡の「今」が描かれていきます。

そんな母親を持ったにも関わらず、高校生・桑野みゆきは明るく逞しく生きてます。母が月謝や修学旅行のお金を入れてくれなくても、会えば文句は言いますが、基本はやがて母娘ふたりで一緒に暮らす、という母の約束を信じて、仕方なく母の兄夫婦&二人の子ども、独身の弟、そしておばあちゃん(京マチ子の母親)とともに、狭い狭い家で同居しております。その狭い家がめちゃくちゃ(当時の日本を映し出すものとして)リアルで、わたくし昭和40(1965)年生まれ、6人家族でこのような家で暮らした幼少期の思い出と重なって心に迫りました。


桑野みゆき♡(別映画)。

763e44485c1291032bffac533eebd6d6

みゆきちゃん♡がまた、素晴らしい。

このサイトでは 「モダン道中 その恋待ったなし (1958) 監督 野村芳太郎」 でのヒロイン・岡田茉莉子のキャピキャピした妹役とか、昭和初期の名女優と謳われた母親・桑野通子 (1915-1946) に続き、巨匠・小津安二郎作品にこれも若い末娘役で出演した 彼岸花 (1958)  などがありますが、その2本の映画では実年齢どおり16歳ごろ。そしてこの「甘い汗」では22歳なのに、高校2〜3年生の役をぴったりと演じています。


 ↓ ヤフオクで見つけた(桑野みゆき:左下)。松竹映画女優の水着撮影会だって。

i-img1200x900-1556596287klhige6484

母譲りと言われる超スレンダーボディー、実年齢22歳ならじゅうぶんセクシーに演じられるところ、16歳の役ですからあどけなく、水着シーン(船橋ヘルスセンターで撮影)もあったのですが、幼くて未発達な感じを全身からただよわせていました。ほんと凄い。

と言うのも、前作・同年2ヶ月前公開の 「日本脱出」監督 吉田喜重(↓写真)では、内田良平(写真右)に犯されそうになるわトルコ嬢役でフェロモン出しまくりだったし、

0900909900

また翌年公開の 「赤ひげ」監督 黒澤明 では、山崎努 相手に何ともはかない大人の色香を発散させてましたから。

そんな桑野みゆき、狭い家では試験勉強もままならず、親友でのちにウルトラマン隊員(特撮ヒロインの草分け)として愛される 桜井浩子(当時18歳)の家に上がり込んで、桜井の優しい母が作るおにぎりを食べながら、文句言わず懸命に生きてました。

京マチ子も必死に生きてます。酔っぱらって深夜に家に帰って家族中からバッシングを浴びても、「昔(もっと自分が若くてモテて)稼いだ金をたくさん家に入れていたことを忘れたんか!」とやり返し、その娘ということで邪険にされるみゆきちゃんには「負けたらあかんで」「二人で住む家は探してる」と言います。

でもね、今までずっと男に依存し、それを生業にしてきたわけですから、それしかできないわけなので、男で失敗すると収入源が断たれるわけです。で、このあとも失敗ばかり繰り返します。

o0834111413966159882

左:
佐田啓二 (1926-1964 8.17) この映画撮影中に事故死。この映画が遺作になります。

ある日、みゆきちゃんが学校で使うテープレコーダー(カセットじゃないよ)を家に持ってきます。踊りの指導が吹き込まれた6ミリテープが付いてて、これで学習しないとあかんわけです。なのに、京マチ子、とにかく収入のためにバカなことを思いつき実行します。よく通う連れ込み宿(今のラブホ)のベッドの下にそれを隠し、すなわち男女のそれを録音して、テープを売りさばこうと(もちろん黒幕みたいな男の指図あってのことです)するのです。で宿にセットしてよろしくね、と駅に向かう途中、偶然にも昔の男・佐田啓二と再会、こともあろうにその宿の部屋に戻って関係しようとします。

いい雰囲気で抱き合いベッドイン。京マチ子、こっそり足を伸ばして電源を入れて・・・するとベッドの下から踊りの音楽が大音量で(笑)。

佐田啓二激怒。「いくらなんでも堕ちた女だ!」泣きながら謝る京マチ子ですが、彼女の生活苦を聞いた佐田は、「そんなに困っているなら」と、援助の手を差し伸べます。

9572751d6043f6db423535bb3714f21a

かつては堅気だった佐田啓二、今は実はヤクザでした。が、そうは見えないし気づかない京マチ子は、言われるままに繁華街の一等地にある靴屋(いわく、佐田啓二の持家)を「ここを家にして商売しながら娘と暮らせば良い」とあてがわれます。しかしその前に、靴屋の主人・山茶花究(さざんかきゅう)と一泊二日の温泉旅行に行ってこいと強引に。マチ子さん、「?」と思いつつ、人の良い山茶花さん(めずらしく関西弁ではない)としっぽりと出かけます。


「用心棒 (1963)」監督 黒澤明 の山茶花さん(中央)これも良かった!。

58967fcb579685bc3c5f4a15255b4b10

さて、その間、娘のみゆきちゃんは最悪です。学校から借りた高価なテープレコーダーが無いからです。母が持ち出したことを聞きつけますが、まさか連れ込み宿にあるとは知らないし、肝心の母・マチ子が行方知らず。学校に戻ってクラスメートに釈明しても弁償しろ!となじられるし、家の家族に相談しても埒があかないことを知っているみゆきちゃんは、ついに絶望のまま書き置きを残して家出します。さみしくさまよい野宿したみゆきちゃんは、それでも家に戻らず、親友の桜井浩子に電話して「みんな私を探してない?」と尋ねますが、家族の誰もみゆきちゃんの書き置きにも気づかず、探していないことにショックで桜井の家で数日寝込んでしまいます(ここらへんのシーンは超せつない)。


桜井浩子「ヒロコ ウルトラの女神誕生物語」

download

そこで、温泉旅行から靴屋に戻ってきたマチ子&山茶花、ビックリします。なんと靴屋はパチンコ屋に生まれ変わって工事も佳境。佐田の姿はなく多数のチンピラと本妻・市原悦子 が我が物顔でいます。つまり佐田啓二の地上げだったのです。どうしても店を明け渡さなかった山茶花を、お色気マチ子をダシにして放り出したとゆうこと。マチ子さんにしてもそう。単に利用されたわけで、娘と暮らせる家なんて、夢のはなしだったのです。

94ad30596db579a34e88e7be343ea95b

わずかな出演シーンでしたが、チャイナドレスの 市原悦子 無表情で甲高い声で京マチ子の抗議を一蹴します。写真はいわゆる「家政婦は見た」より。


そんなこんなで散々酔っぱらって荒れ狂って久々に朝帰りの京マチ子。そこにはみゆきちゃんも戻って寝てました。おばあちゃんの 沢村貞子 から、ゴミ箱に捨てられた書き置きを見せられ責められますが、「戻ってきたならそんでええやん」と脱力状態。さらに家族から責められたマチ子さんは逆切れして、大の字になって「ウチを殺せ!」と泣きわめきます。


「美と破壊の女優 京マチ子」観る前に読破してました。おススメ。

51qjbSdVoOL._SX344_BO1,204,203,200_

そう。誰にもうまく説明できないし、言葉で語れるものではないのですが、京マチ子はマチ子なりに、たとえ男依存でしか金銭や物(家)を手に入れられないこと、しかも騙され捨てられ何も得られなかったことに強い憤りと自己嫌悪を抱えているのです。


突然、みゆきちゃんが起き上がって母マチ子に掴みかかります。ここもマチ子同様、言葉はありません。マチ子も驚きながら「親に何するねん!」と抵抗します。跳ね返されても、みゆきはマチ子に向かいます。そうです、母親が抱える自己嫌悪なんて知ったこっちゃないのです。母の愛情が、言葉が欲しかっただろうし、何よりもその母の心の中に、自分が占める割合が少なかったことが見せつけられたと感じたのかもしれません。でも、大好きな母なんです。あ〜書いててつらい。この無言の母娘掴み合いは、強烈に胸に迫りました。



もう一枚。写真右側のけぞりがみゆきちゃん。

i-img1200x900-1556596286rhvhk06484

バトルのち、絶望のみゆきは肩で息をしながら、ほぼ一枚しかないだろうお出かけ用のブラウスに急いで着替えます。


「住み込みで働けるところ見つけたから!」


早口で告げて、わずかな荷物を抱え家を出ます。マチ子や家族の静止を毅然と振り切って、旅立つわけです。しばし目が点になった京マチ子、遅れて財布から札(額面不明)を取り出して、娘のあとを追います。

「お金、お金!」

しかし、土手の上の車道で、桑野みゆきは母を待ちません。タクシーに飛び乗り、母がお金を振って追いかけてくるのをぐっと唇を噛み締め、車は発進します。

娘を引き留める肝心の言葉が出ず(それが一番大切なのに)、かろうじて千円札なのか万札なのかを取り出してあとを追うマチ子のあわれな姿。

去って行くタクシーを見つめ茫然自失。そして陽が昇るなか、ひとり何か歌をくちずさみながら、家とは逆の方向へとさまよい歩き、完。

IMG_20190514_183331

断りなく、ほぼネタバレレビュー、久々の長文(仕事の合間に4日かかりました)。

京マチ子、享年95。合掌。


この作品が遺作となってしまった佐田啓二(数カットをのぞいてテレビドラマロケ中に、スタッフが運転する車が事故で死去)が、スマートでグロい悪役だったのも良かった。映画中盤、船橋ヘルスセンターでの登場シーンは写真合成(あとで知ってなるほどと)、終盤京マチ子に向かって塩を投げつけるシーンも、そう言えばクローズアップ撮れなかったんですね。佐田さん、天国でマチ子さんいたわって下さい。

あと、池内淳子 (1933-2010)が、マチ子さんの友人ホステス役で、ノーメイクぽく汚れ役やってました。ヒロイン張れる女優さんが脇に廻る、ゆえに京マチ子の演技がさらに説得力を持つ、そんな感じがしました。淳子さんも天国でよろしくです。



ほか素晴らしいスタッフに関しては、別サイトをご覧下さい。

原作・脚本:水木洋子 (1910-2003)

監督:豊田四郎 (1906-1977)


撮影監督:岡崎宏三 (1919-2005)
映画収集狂サイト → https://sentence.exblog.jp/1737265/


佐田啓二ほかのまとめサイト

”佐田啓二(中井貴一の父)の死因は交通事故?親族や家族構成”

ロケ地:下北沢ほか指摘&レビュー

大衆文化評論家 指田文夫の「さすらい日乗」


Youtube 予告編(良くない)



2019年 5月15日 神保町シアター

”水木洋子と女性脚本家の世界” で観賞

IMG_20190514_193640

amazon prime

DVD出てません。検索すると変なページ行きます。