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面白かった。


昭和40年生まれのぼくとしては、石原裕次郎を「裕ちゃん」と呼び熱狂した大人たちの気持ちがよく分からず、石原裕次郎と言えば TV「太陽にほえろ」とか TV「西武警察」とかでボスみたいな、貫禄あるというより肥満体型で、確かにギリギリ恰好よいと言えばそうなんですけど・・・みたいな感覚でいました。

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左下:石原裕次郎 (1934-1987) 


このサイトで若き、痩身の裕ちゃんをいくつか観てきて、でも未だに恰好良いとは思えず。確かに長身でスポーティーで、そこはかとなく茶目っ気があり、でもスタアであらなければならないというその時代の前提で物語が組まれているので、おおむね汚れないし、葛藤はあっても暗さは感じないし、常に美女と共演してるし、危うさを見せてもそれが危うくならないだろうことがわかるし、みたいな。あの時代の映画=娯楽の中心である以上、大多数の観客に受け入れられる演技、存在でなければ「裕ちゃん」じゃないわけだから、今の時代感覚で観ると軽いし、深みに欠けてるしと見えてしまう。(ファンのみなさんごめんなさい)。そんな彼の出演作をまだ数本しか観られてないのでもうこれ以上、偉そうには言いませんが、これは凄い! ほんと面白かったです。


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ヒロインの 浅丘ルリ子 (1940-)  も最高に良かった!。

裕ちゃんは文筆もする、文化的な芸能人役です。冒頭は深夜ラジオ番組の録音シーンから始まって、終了後、多忙であることを表すようにややイライラしながらジャガーを運転して自宅の高級マンションへ。そこは個人事務所でもあり、壁には分刻みのスケジュールが書かれており、パンツ一丁(おっさんパンツ!)になって爆睡します。翌朝、宝石のようにキラキラした浅丘ルリ子がハイヒールで颯爽と部屋にやってきて、裕ちゃんを叩き起こして朝食を出し、今日の予定を伝えます。そう、ルリ子さんは裕ちゃんのマネージャー兼、一応恋人なんです。

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浅丘ルリ子、5年後、同じ監督の 010「愛の渇き (1967)」 スチル写真より。


恋人であることには条件があって、キスもセックス(具体的にその言葉は使いませんが)もしないこと。それで2年間くらい、別居で関係が続いているのです。つまり相棒的感覚。でもそれぞれに愛情はあるわけなんですが、例えばナイトクラブでお酒が入ってダンスして、それでも常に二人はその条件を確認しあって別々の家に戻るわけです。  

ある夜、さすがに互いの悶々が最高潮になり、裕ちゃんの部屋で半裸で抱き合うところまで行きました。が、キスを迫る裕ちゃんの形相に恐れをなしたか、あるいは条件に執着しすぎたか、ルリ子さん「いやっ!」と突き放します。裕ちゃん、ジャガー(オープンカー、幌なしなのか付けてないのか)に飛び乗って、雨の中ずぶぬれになりながら爆走して、海岸沿いに車を停めてボンネットに大の字になって雨を浴びながら叫びます。

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そうね、他の映画でもずいぶん書きましたが、青春の悶々=ただただ走る表現の典型です。

裕ちゃんのテレビのレギュラー番組に「今日の三行広告」とゆうのがあり、新聞に載っている小さな広告を出している庶民をスタジオに呼んでイジるのですが、こんな広告を見つけました。

「東京でせっせと働きやっと買えた中古のジープを、熊本・阿蘇の山村で開業医をしている彼(婚約者)に誰か運転して届けて欲しい」

その広告を出したのは貧乏長屋でつつましく暮らす、このサイトでも一押しの女優・芦川いづみ (1935-)  いづみん♡。そこへ番組ディレクターのチャラ男・長門裕之 (1934-2011) とジャガーで乗り付けた裕ちゃんが出演交渉と、なぜに長距離恋愛が成立しているのか?を聞きます。そう、裕ちゃんは自分の近距離恋愛が破綻しかけているなか、「愛とは何ぞや?」と心の中で葛藤しているのです。いづみん♡は、ぼくが観た彼女の出演作のなかでは出色の不機嫌&冷たい演技でテレビ出演を拒みますが、結局嫌々出ることになりました。そう、ジープがないと愛する彼は不便な山村で大変だからです。

生放送のそのテレビ番組で、いづみん♡には「純粋な愛」というレッテルが貼られます。これはチャラい長門裕之のテレビ的演出なんですが、裕ちゃんは「純粋な愛」が何のことか?芸能人として多忙で一歩街へ出ればファンに取り囲まれる生活もありわけがわからなくなっているので、いづみん♡と口論したあげく逆切れして「俺がジープを運ぶ!」と宣言してスタジオを飛び出します。

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ジープ。映画ではこれも幌付いてません。


「男に二言はない」が裕ちゃんの他のどんな映画でも共通した生き様ですから行くわけです。大慌てになるのはマネージャーであるルリ子さん。だって生放送のあとにも出演番組やら山ほどあるわけです。だからルリ子さんジャガー運転して追いかけます。テレビ局も契約違反だ!とか言って、翌日の新聞記事になったりして大騒ぎですが、テレビはテレビでしたたかで、熊本に向かう裕ちゃんをこっそり追いかけてそれを動画(もちろんフィルムですよ!)で撮影して番組で流し「裕ちゃんは山村の医者といづみん♡の純粋な愛にほだされ、ヒューマニズムで行動した!」と美化するわけです。

当初、ルリ子さんはマネージャーとして追いかけて、所々追いついて何とか裕ちゃんを引き戻そう、ついには代わりのジープ運転手まで用意して京都あたりまで行くのですが、裕ちゃんそれらをことごとくかわして進みます。

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左:代わりの運転手役・川地民夫 (1938-2018) このあと裕ちゃんに殴られ去られ、ルミ子さんをくどくも振られ取り残されます(笑)。


箱根〜名古屋〜大阪〜フェリーで四国〜広島〜博多〜そして阿蘇。

昭和37年当時の各地の風景がカラーでじゃんじゃん映されます。これがすごい!各地でエンストしたり修理したり、裕ちゃんその都度群衆とマスコミに山ほど取り囲まれます。個人的には当時の大阪(ぼくは大阪出身なので)、国鉄大阪駅前でそのシーン。阪急百貨店と阪神百貨店前の歩道橋が無い!いちいち感動して観てました笑。

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 ↑ このとおり。中央左が大阪駅。上側に阪急百貨店、その対面に阪神百貨店。映画の撮影は大阪駅前を出て阪神百貨店と手前の建物(現ヒルトンホテルあたり)の間くらいでやってました。すごい群衆集めてた。

写真:昭和37年〜平成5年の梅田(大阪市北区をめぐるブログ)より


ルリ子さん、何度も裕ちゃんにスカされて、追いかけながらようやく気づきます。マネージャーとしてではなく、女として、彼が必要だということ。そして裕ちゃんも気づきます、男として、彼女が必要だと言うこと。

阿蘇に近づいて山の悪路でジャガーが転落、間一髪でルリ子さんを救い二人でジープに乗って阿蘇に到着。そこには村人大群衆、そしてヘリコプターが降り立ちいづみん♡登場。長門裕之が感動のシーンを演出して撮影しようとしていたのです。

「愛」をショーアップされたことに医者の彼・名優・小池朝雄 (1931-1985) 萎えます。小池さん何と台詞ひとことも無し!その表情を見ていづみん♡も困惑します。いっぽう、裕ちゃんとルリ子さんはその道中において、純粋な愛とは何か?を得たのですから、お約束で長門裕之を殴り飛ばして二人去ります。

ラストは青空、広い草原の上で二人抱き合いキス(のちに恐らくセックス)ギラギラ輝く太陽が映って「終」。


ごちそうさまでした。


ロードムービーとして、この時代にここまでやれたことがあったのは驚きでした。さすが娯楽の中心・映画の力です。そして観客たちが憧れる芸能人の生活ぶりやらを素晴らしいカメラワークと編集で描いた蔵原監督の力量も凄いと感じました。

ほんと撮影凄い!

石原裕次郎って、大根です。ヘタです演技。でもすばらしく華があるし、彼が動いているだけですべてが映える。さすがだなと思ったのと同時に、ヒロイン・浅丘ルリ子が超絶セクシー&キュートで痺れました。スレンダーでちょんと立った乳房。スタイルだけではなくそれぞれのシーンにおける体当たり度、表現力も素晴らしい。

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もっともっとたくさんの人に観て欲しい!

ビデオ出てます、是非!






2019年 11月7日

神保町シアター「スクリーンの青春 日活女優図鑑」で観賞


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