観賞中、なんでおれはこんなの観てるんだろう?という思いが去来して、何とかカラーだし、時代の景色や衣装、島耕二 (1901-1986) 監督 といえば、大映初の総天然色SF映画 138「宇宙人東京に現る(1956)」 での中身は置いといて(笑)劇中の現代長屋、町並みセットの素晴らしさが印象的だったので、中身はいいからひたすらへえ〜こんな色、風景、なるほど〜と。またこの映画で主演デビューした 渚まゆみ (1944-) がどえらくヘタクソで(謝)でも、とてつもなく可憐でキュートなのでわくわく、かつ 時代探求的に観賞しました。
誰もが知っている、日本に生まれ育ったかたなら誰でも知っている童謡「赤とんぼ」をモチーフにした映画なんですが、名曲誕生秘話ではなく、昭和36年の恐らく東京の子どもたちの生きる葛藤、格差、差別、盲学校でたくましく学ぶ生徒たち、それらが盛り込まれているお話です。
赤とんぼ Wiki
1921(大正10)年に詩が書かれ、1927(昭和2)年に 山田耕筰 (1886-1965) が曲を付け、 Wiki によれば2006年の「好きな童謡ランキング」でも一位。もの凄い名曲、日本人の魂に擦り込まれているメロディです。
山田耕筰、このお姿のまま、終盤に登場し演技してます。
映画は可愛いイタズラっ子たちの日常から始まります。学校をさぼって八百屋からリンゴ、本屋から相撲や野球の雑誌なんかを万引きして、どらえもんよりすごい土管だらけの秘密基地に集って遊んでます。小・中学生の男ばかりのなか、紅一点、高校生の渚まゆみもメンバーです。まゆみちゃんは母の再婚相手(富豪)と、そのセレブビッチな長男との生活に馴染めず、つい少年たちと加担してやってますが理由があります。メンバー最年少の混血児(当時、ハーフとか、ぼくが子どものころによく使った「あいのこ」などの表現ではなく)、朝鮮戦争で死んだ黒人の父親と貧しく内職しながら暮らす日本人母との間に産まれたノボルくんのことが心配で、お姉さん役をしているわけです。馴染めない新しい家族との生活から逃げるように、放課後は「黒んぼ」と言われいじめられるノボルくんと交流しているのです。
左:ノボル 右:渚まゆみ
まさに夕やけ小やけの公園で二人、ノボルは歌が好きで♪夕やけ小やけ歌います。お世辞にもうまいとはぼくは思いませんでしたが、まゆみちゃん感動して「歌手になりなよ!」親のタンスから現金盗んでその金を月謝にして、乗り気じゃないノボルくんを胡散臭いジャズボーカルスクールに連れていきます。しかし「どうして肌が黒いの?」「英語喋れる?」大人たちの心ない質問にノボルくん傷つき出て行きます。
そこでなぜかノボルくんは盲学校にたどりつきます。そこでは目の見えない生徒たちが楽しく指導を受けて合唱だったり、びっくりしたのは(実際の盲学校関係者による)バイオリンやピアノの演奏の素晴らしさ!ぼくと同じようにノボルくん感動して、盲学校に入り浸るようになります。
やがてまゆみちゃんもそれに加わり感動し、盲学校生たちの音楽活動をたくさんの人たちに聴いて欲しい、知って欲しいとの思いで、こともあろうに赤とんぼ作曲者、山田耕筰の高級住居に押し掛け、耕筰さん本人に直談判し音楽祭の開催を訴えます。
とはいえ耕筰さん多忙です。いい感じだったのですが取り巻きがそれを許しません。まゆみちゃん門前払いです。
でも、まゆみちゃんの願い通り、大きな原っぱで、盲学校だけではなく警察の音楽隊とか米軍のマーチングバンドとか、ほかアマチュア音楽家たちが集って開催されます。しかしそれはまゆみちゃんの妄想だったのですが、物語的には「いつかきっと」の希望を含めて完。
結局、ノボルくんは冒頭の公園で歌ったきりで以後歌いません。まゆみちゃんの家族との確執も解決しないままです。要は貧乏でも、障害があっても、差別されても明るく生きよう!という、そんな映画です。だからぶっちゃけ、赤とんぼでなくても良かったわけで、それが何だろう?山田耕筰さんを顕彰するならもっとストレートに行けばよいものを、どうにかヒエラルキーの格差を見せて御涙頂戴にしようとするような浅はかさを感じてしまい残念。
ただただ時代をしっかり観られたこと、そして今の時代、果たしてどれほどのかたが生きて動き喋る山田耕筰を知っているのか?それを確認できたことが何よりの収穫でした。
まゆみちゃんも、ノボルくんも演技力最悪です。そこに沿ったであろう脚本なので、まるで小学生の学芸会みたいなセリフ廻しと演技です。渚まゆみさんを調べていたら、このサイトでは 239 「ある殺し屋 (1967)」監督 森一生 に出てました。うーん、記憶ない・・・
あ、これか!
殺し屋・市川雷蔵が狙うヤクザ親分の若き妻。↑ このあと雷蔵がまゆみちゃんの着物の帯をこっそり切り、「きゃー」と慌て、会場が騒然となるスキに親分暗殺。短い出番でしたが可愛かった思い出しました。
同じ市川雷蔵の「眠狂四郎 女地獄 (1968)」(未見)でも共演してました。
盲学校の先生・生徒たちが、健常者の知らない世界で音楽に取り組む姿など、それらを広く知らせる意味ではこの映画は有意義です。でもその意図と、赤とんぼの結びつきが強引に思えてならず、クライマックスの演奏シーンも健常者の演奏シーンのほうが多くて???
混血児の差別に関してはここでもすでにいくつか紹介してきましたが、今の時代とは比べられないくらい多くてそれは。その理不尽さを知らせる意味でも貴重な1本です。
当時の大映関係者が撮った渚まゆみさん
めっちゃきれい♡
現在は娘夫婦が住むロンドンと六本木を行き来して暮らしているそうです。
ノボルくんのその後は不明。
キネマ旬報ベストテン 1961 選外
大映関係者のブログ「渚まゆみ」の思い出(貴重)
https://blog.goo.ne.jp/ken401_001/e/1f4763100a095c4218a39df9534118f2/
プレスシートより。現住所記載(恐)。
2020年 2月26日
ラピュタ阿佐ヶ谷「映画の中の子供 ちいさな主人公たちの、おおきな、おおきな物語」で観賞
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