g238353016.1



面白い、すばらしい!


監督の 市川崑 (1915-2008)   はこの年、ここでも絶賛した 158「野火」 をこのあとに撮ってます。 片や戦争の理不尽さの中で繰り広げられる壮絶なサバイバルサスペンス、そしてこれはシュールな人間関係の中であらわになるエロスと映像美(と簡単に言い切れないよっ!)コミカルでもあり、バイオレンスでもあり、ホラーでもあり、よくもまあこんな構成ができるものだとただただ感嘆しました。こんな傑作を一年間に2本も撮るなんて、ほんと市川崑、只者にあらず。独特の映像センス、編集のリズムも当時としてはかなり斬新だったのが分かる気がします。色彩をぐっと抑え、まさに監督の代名詞でもある「映画は、光と影」を完璧に立証してます。 撮影は同じく名匠・宮川一夫 (1908-1999)   。宮川さんも(親しく呼ばせて下さい!大学のときキャンパスでよく見かけたので)この「鍵」のあと、同じ年に今のところぼくが1番大好きな 小津安二郎 (1903-1963)  監督の大傑作 112「浮草」を撮っているので、そんな凄い仕事を立て続けになんて、もう〜失神しそうです。



1



 ↑ 神保町シアターで展示されてた原作本(恐らく当時)。


原作はこの映画化をきっかけに、老人の性や変態的な題材ばかり映画化されてしまう 谷崎潤一郎 (1886-1965)   。映画ポスターのキャッチコピーには、

「愛慾描写の凄まじさに映画化不可能を叫ばしめた谷崎文学の完全映画化」

とあります。当時の映倫は「成人映画」指定し、何やら国会でもよーするに「卑猥」だと糾弾されたそうであります。 で、今観て、全裸も乳房は見せませんし、濃厚なキスシーンがあってもすぐにカットが切り替わります、まったくもって成人映画ではないのですが、昭和34年ですから、戦後14年ですもの、そりゃあこの程度でも物議を醸すわけです。


i-img1200x532-1601787631qc9hhx1058247


 ↑ ここまでっ!(笑)。



112「浮草 (1959) 監督 小津安二郎 」 では愛人関係(内縁)、153「大阪の女 (1958) 監督 衣笠貞之助」 では愛すべき大阪の父・娘を演じた 中村鴈治郎 (二代目 1902-1983)   と 京マチ子 (1924-2019) が、ここでは妖しい夫婦です。 年の差がかなりある設定。夫・中村鴈治郎は若く献身的な妻とセックスがしたいのにもうできないわけです。なのでこっそり病院に行っては精力剤を注射してもらったり、酔って寝た妻・京マチ子を裸にして写真を撮ったり、さらには若くイケメンな医者(インターン) 仲代達矢 (1932-)   を何度も自宅に呼んでは仲代とマチ子さんを二人きりにしていい感じになるのを覗き見して興奮したりしてるわけです(「嫉妬」という感情は若返るな〜という台詞がありました)。

さらに仲代達矢も狡猾な野郎で、夫婦のひとり娘の大学生・叶順子 (1936-)   とすでに良い仲であることを互いに隠して、鴈治郎がすすめる結婚話に乗ろうとしています。鴈治郎は古美術の鑑定士として大きな屋敷に住んでいるので、あんまり好きじゃない叶順子だけど夫婦になれば屋敷の中で開院できるだろうし、老い先短いだろう鴈治郎が死ねば・・みたいなこともきっと心の中では考えてるわけです。



sonnycorleone1948-img600x441-1404017776chaizn27782

左:仲代達矢 右:叶順子



叶順子は、そんな仲代達矢が徐々に自分の母親の京マチ子とできていく関係に当然嫉妬しながら、そう仕向けた父と母を嫌悪し、それぞれに自分が覗き見たことをぶつけ、なじりますが相手にされません。こうなったら母へのライバル心で ↑ 仲代達矢と写真のように激しく結ばれていくのです。

ややこしいでしょ?

複雑でグロく感じる(ぼくの文章力も限界)なんですけど、限られた台詞と所作、映像空間(美術セットと光と影)で、それらの人間関係がスタイリッシュに見事に組合わさっているのです。 


i-img640x480-1540360344yacnu2540



左:脱がされ寝ている京マチ子 右:写真パチパチ中村鴈治郎



性の渇きもあるマチ子さん、鴈治郎が脳卒中で寝たきりになったあとは、仲代達矢に裏口の「鍵」を渡して、深夜に密通します。こっそり叶順子見ています。鴈治郎死にます、盛大な葬式を終えて3人で慰労会と称して食事をします。さあここで原作にはないどんでん返しのラストへと向かいます。 これは語らないでおきましょう、ぼくも知らずに見て相当うなりましたから、是非の観賞を願います。

昭和34年のニッポンがどんなだったかは産まれてないので知りません。でもここで古い日本映画ばかり漁って感じたことで言うと、この映画はとんでもなくシュールでそんな映画は、1962(昭和37)年になって 安部公房 (1924-1993)   の原作映画化  034「落とし穴 」 を撮った監督・勅使河原宏 (1927-2001)  までなかったのではないかと思います。勅使河原さんはその後も安部公房原作の大傑作・035「砂の女 (1964)」 036「他人の顔 (1966)」   ←仲代&マチ子共演(ここではマチ子さん乳房見せてました)そして、037「燃えつきた地図 (1968)」 と独特の世界観を極めていくのですが、市川崑、とっくにやってたわけです。

4人の出演者、それぞれに誰も愛なんてない。不気味なほどに感情を抑制した芝居が続きアクションがないので舞台劇を見ているような気にもなります。 もうひとつ、当時の京都の風景とその切り取り方がめちゃくちゃ心に刺さりました。もう一回観てみたい!



tokyopx1945-img600x458-1326978127u5i3zc30217


1-2



中村鴈治郎、京マチ子の恐ろしいほどの表現力、役柄ぶりは今までも語ってきましたので興味があるかたは過去ログを是非。ブサイクメイクの叶順子もすばらしいし、仲代達矢のキモい感じも最高。おっと最後に豪邸のお手伝い婆さんを演じた 北林谷栄 (1911-2010) が当時48歳とは思えない見事な老け演技(毎度毎度うなされます!)お見逃しなく!


市川崑、もっともっと掘らなければ!



080699d1554bed12520a6a4b4ee6d4d5






キネマ旬報ベストテン 1959  9位
(ちなみに同年の「野火」は2位、ぼくはどちらも甲乙付けがたい)






奇しくも、京マチ子さん逝去直前に思い出話を語った仲代達矢インタビュー記事(必読)

https://moviewalker.jp/news/article/181413/p2



Wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8D%B5_(1959%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB)


グッドレビュー

https://york8188.hatenablog.com/entry/20171002/1506875380


中村鴈治郎の良さに触れたレビュー

https://www.healthcare-butler.com/kagi/







2021年 2月13日
神保町シアター「生誕百三十五年 谷崎潤一郎 耽美と背徳の文芸映画」で観賞



1-1




鍵 修復版 [Blu-ray]
北林谷栄
KADOKAWA / 角川書店
2019-09-06





何度もリメイクされてます。気になるかたは Wiki  へ。