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名作です。



学生時代に 三島由紀夫 (1925-1970)    の原作 「金閣寺」 を読んでいたけれど、全然おぼえてなかった。 観賞後、色々調べてみると、作家・三島由紀夫に批判的だった当時の論者や思想的に対立していた側からも、この小説「金閣寺」は絶賛され、今なお読み継がれ世界中に翻訳本が出されているそうです。 さっそくブックオフで原作本を再入手、読み直しています。さすがに文章が格調高く、映画化は躊躇したであろうと思いましたが、どうしてそこがさすが 市川崑 (1915-2008)   の演出(当時43歳)、妻である 和田夏十(わだ・なっと 1920-1983) の脚本、 原作は金閣寺を放火することになる若い僧侶の一人称による回想・告白を(つまり詳細に心情が吐露されているものを)主人公の台詞を大胆に減らし、仕草や表情、そして映像美で再構築しています。見事な芸術作品、壮大な水墨画を観るような趣、ほんと見事です。



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吃音症で引きこもり体質の主人公を演じるのは、当時時代劇のスタアとして大人気だった 市川雷蔵 (1931-1969)。 これ当時としてはおどろきもものき一大事、あのライさまが丸坊主で「どもり」だなんて、市川雷蔵はこの作品によって、本格的俳優として高く評価されたそうです。主人公の屈折した心情を抑えて抑えてこれまたお見事でした。

京都府・舞鶴の寒村から、金閣寺に奉公に来た雷蔵は、かねてから僧侶であった父(結核で死去)より「この世に金閣(映画では金閣寺との話し合いでフィクションとして「驟閣(しゅうかく)寺としている)ほど美しいものはない」と聞かされ、自分の心の中に「美しい=金閣」という観念を構築していました。 が、実際の金閣は、観光収入に色めく寺院の人間模様や、雷蔵と関わるあらゆる人間たちの「偽善に満ちた」欲望によって汚されていると、雷蔵は感じるわけです、そこに吃音症いじめや差別、子どもの時に見てしまった母の不貞、足に障害があることを駆使して同情を買い、女たらしをする友人・仲代達矢 (1932-) らに囲まれ、もはや「美しい金閣」を、自分の胸にだけ収め独占しようと火を放ってしまうのです。(この解釈、少々間違っているかもしれませんがお許しあれ)


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結局、雷蔵自身が「偽善」にも満ちているわけで、その思いをただ金閣の美しさに固執してしまったあげくの、独善的な破壊行為です。なんの同情もできません。でも、そのような社会的弱者であり、言葉をうまく操れない青年が、いかにそこへ至るのか?は人間ドラマとしてとても見応えがありました。

住職役の(ぼくが散々絶賛してきた)人間国宝・中村鴈治郎 (二代目 1902-1983)  もまた素晴らしい! 住職であるのに愛人を囲い(彼女を妊娠させてしまい激しく動揺する)金閣炎上を見上げてつぶやく最後の台詞、そのひと言に集結するまでのあらゆる所作、眼力、佇まいすべてが名演すぎて息を吞みます。



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雷蔵の母を演じる 北林谷栄 (1911-2010)   もずばり卑屈。雷蔵の哀れさがこれにより強調されます。そして映画デビュー間もないころで、性格俳優な部分を出し切れてなかったころの若い仲代達矢が、この作品で名優の片鱗を見せてくれます。やっぱ凄い人は昔からすごい!


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撮影の凄さ、美術セットのもの凄さ、まだまだ語れそうですがこのへんで。コロナ禍が終わったら是非「そうだ、京都行こう」したいもんです。




2021年 2月20日
DVDで観賞




キネマ旬報ベストテン 1958 4位






映画「炎上」Wiki(かなり詳しい前後潭)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%8E%E4%B8%8A_(%E6%98%A0%E7%94%BB)


小説「金閣寺」 Wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E9%96%A3%E5%AF%BA_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)


2018年の仲代達矢思い出話

https://eiga.com/news/20180421/10/


優秀レビュー

http://nadja.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-0656.html







炎上
浜村純
2015-09-21