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日本映画の傑作と言えば、数多くあるなかでこれもまたそうで、これを見ずして語るなかれみたいなことも感じていたので何とか時間をやりくりして観賞。 もとより敬愛する 森繁久彌 (1913-2009)   が得意の関西弁で夫婦役を演じるわけですから。 先に後年の川島雄三監督作 300「暖簾 (1958)」 における同じ関西弁の夫婦ものを観て強烈に心に染みていたし、きっと笑わせ泣かせ心に突き刺さると思い、ただあんまり期待なんかしないで冷静にと魅入りました。

先ずタイトルの「夫婦善哉(めおとぜんざい)」というフレーズ、これはたぶんぼく自身が子どものころにすでに知ってたもので、(映画のヒットによりテレビドラマ化なども多数あり)「善哉」をぜんざいと、すっと読めるじぶんがありました。 だからきっと夫婦が夫の浮気やなんやかんや色々あったり、商売の成功失敗色々あったりして、それらを乗り越えて「夫婦(めおと)」としての結束の物語だろうなとは観る前に感じていたわけです。


確かにその通りでした。 が、主人公である夫の森繁久彌、グズグズです。  昭和7年の大阪が舞台。船場(せんば)という有数の商人問屋街の大店(ポマード、整髪剤を3代に渡って扱う)の長男で、3代目の父親が病床にいるのでもうすぐ4代目目前なのが森繁さんなんですが、芸者遊びが嵩じて芸者だった 淡島千景 (1924-2012)  と駆け落ちしたところから物語が始まります。   



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左:森繁久彌 右:(最初は内縁、やがて妻役の)淡島千景 (1924-2012)



寝たきりの3代目はカンカンです。寝たきりでもいわば社長なわけですから、跡継ぎの息子をボロクソにののしり勘当します。 森繁には妻子がおりました。が、淡島との愛に生きると決意し二人で暮らそうとするのですが、森繁はことあるごとに船場に戻り金を無心したり、ひとり娘を可愛がったり、やがて3代目が死んだら財産分与は当然だおれは長男だ!とか叫んで暴れまくります。これが見ていて情けない、つらい。あんまり感情移入できひんわけです。 淡島は二人での新生活のために芸者の仕事を再びはじめますが、必死に貯めたお金を森繁は男友達との飲み食い宴会で使い果たして朝帰り繰り返したり、それでも、それでも、泣いて叩いて別れようとしても、淡島千景の愛は揺るがないのです。 ここらへんの男女関係・夫婦関係、ちょっと今の感覚じゃありえへんのですが、そう、感情移入できないと書きましたが、違う、そんな男のあかんたれな部分がぼくにもあるから、見ていて見せつけられているような気がして、つらかったのかもしれません。



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そういう意味で面白いです。情けない森繁久彌の役柄に、淡島千景と一緒になって見守るしかない、そして淡島のけなげな生き様、美しさ、それらを大掛かりで見事なセットのなか、昭和初期にタイムスリップして味わう気分、ええもんです。


3代目が死ねば遺産はおろか、あわよくば4代目に戻る気持ちでいたアホ丸出しな森繁でしたが、3代目は急遽、養子を迎え、森繁の妹の夫にします。つまり養子が4代目になるのです。森繁ダッシュで船場へ向かい養子を必死になってののしりますが、この養子、微動だにしません。演じるのは怪優・山茶花究(さざんか・きゅう1914-1971)。  大学出のインテリでまったく笑わず、常に番頭さんたちにテキパキ指示を出してますが、森繁とは口も聞かず、娘にも会わせず、3代目にも会わせないし、のちに森繁が入院して手術費を淡島が無心に行っても冷酷にはねつけます。


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そこで3代目が死にます。 森繁は「長男」であるという理由で参列しますがここでも冷酷に扱われます(もうほんと当たり前と言えば当たり前のはなし、抗う森繁が哀れでアホ)そしてせめて夫婦として認めてもらいたいばっかりに、参列を希望した淡島は葬儀に行かせてもらえません。 さらにグダグダな森繁は遺産相続を迫りしばらく淡島の元へ戻りません。 あわれ淡島は愛する森繁が自分を捨てて船場に戻ったと思い込み、自殺未遂を起こします。 これが新聞報道され、船場きっての大店の長男の愛人が自殺未遂となれば、大店の怒りも限界突破、完全に縁を切ります。 無一文の森繁久彌と、少しでも希望を持って行きて行こうとする淡島千景の去っていく姿で幕。

監督は数々の文芸映画で大作を撮り続けた 豊田四郎 (1906-1977)  ↓ チラシにあるように演出の厳しさに満ちた傑作です。 ただ、場面転換が常に丁寧なフェードイン、フェードアウトでそれはそれで良いのですが単調にも思えて、それこそ先に述べた 
川島雄三監督作 300「暖簾 (1958)」 なんかのリズムとつい比べてしまうと、冗長に感じてしまったのは残念なところ。


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中央が 豊田四郎監督



森繁久彌の名人芸、淡島千景のイヤ味のない色気と美しさ、さらに名優が続々、ちょっとずつそこかしこに顔を出していて、さすがに363本も観てきて「あの人もいる!演ってる!」みたく、個人的には細かいところまでかなり楽しめました。

そうそう、劇中で3回、原作の 織田作之助 (オダサク 1913-1947) が実際に足繁く通ったという明治時代創業 自由軒 のライスカレー 屋が出てきます。ぼくも子どものころ食べました。 あと森繁と淡島が、今度こそ二人で歩んで行こうというシーンに、実際にあった(現在も継承されている)ぜんざい屋「夫婦善哉」 で食事するシーンもありました。そう言えば、ラスト「終」の文字が出てくるバックには、このお店に江戸時代から鎮座するというおたふく人形が映っておりました。  



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キネマ旬報ベストテン 1955  第2位





夫婦善哉 Wiki  




2021年 3月27日
ラピュタ阿佐ヶ谷「豊田四郎と文学のこゝろ」で観賞


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夫婦善哉
浪花千栄子
2016-12-01