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面白かった。


バリバリスタアな 宝田明 (1934-) 当時24歳と同い年、麗しい♡ 司葉子 (1934-) の単純なメロドラマ、と思いきや、終始飽きさせない演出、構成、ベタな部分もクドすぎず、塩梅がよかった秀作です。

タイトルバック、夜の東京・神田界隈の風景が、影絵作家・藤城清治 (1924-)  の画で綴られます。 そしてファーストカットに1884年創建、関東大震災・東京大空襲をくぐり抜け重要文化財に指定されている ニコライ堂 のドーム屋根が映し出され、その付近にある飲み屋街(セット撮影)のバーにカメラは進みます。 ニコライ堂周辺は今ではビルだらけで、セットとはいえこの飲み屋街がヨーロピアンで美しく、当時そんな風情だったのかなあと羨ましく感じました。


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ニコライ堂


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画・藤城清治



草笛光子 (1933-)   がママを勤めるバーに、亡くなった夫の妹・19歳の司葉子が訪ねてくるところから物語がはじまります。 ママは葉子ちゃんを実の妹のように可愛がり、バーで働かせます。この葉子ちゃん、とにかく可愛い♡。 あまりに初心な台詞廻しなので、きっとデビュー間もない頃だと思ってましたがさにあらず、それが19歳を演じる演技力です。

バーの常連客で、なんの会社かわからんのですがその社長の息子・宝田明がさっそく葉子ちゃんに手を出そうとします。 ママや他のホステスさんたち、さらには宝田の同僚なんかが必死になってそれを止めようとします、なぜなら宝田明は超が付くほどの女たらしですから。



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宝田明。前髪ちょろり垂らしてるところがニクい。



宝田は社長であるオヤジに反撥して、ろくに働かず女遊びばかりしているのです。特にダンサー・ナイスバディ・淡路恵子 (1933-2014) とはずるずるの関係です。しかし、まあしゃあないです、宝田明と司葉子は惹かれ合い、宝田も「これが真実の愛だ」なんて言うわけですが、2人以外はそんなこと信じてくれません。宝田の母親は病死したそうで、元宝田家の家政婦だったパワフル婆さん、NHK朝ドラ「おちょやん」こと 浪花千栄子 (1907-1973)   が現れて「わては死んだお母さんに明のことを頼むと言われましたんやで、せやからこれは母親の言葉と思て聞きなはれ」と、たかが女給ごときにナニぬかすと、痛快な大阪弁で明を説教します。


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おちょやん♡



おちょやんの娘で秘かに明に恋心をいだく 団令子 (1935-2003) は明と同じ会社(席も隣)のタイピストなので、明の行動は常に監視されおちょやんに報告されていたのです。 明には大会社の令嬢との縁談話もあります。ついにおちょやん勝手に動いて草笛光子のバーを急襲、草笛と葉子ちゃんに「明につきまとうのはやめなはれ、縁を切りなはれ」と迫ります。これに草笛がキレて「手を出したのはそっちのほうでしょ!」と口喧嘩、話し合いは決裂しますが、葉子ちゃん深く傷つきます。

一方、宝田明は愛人の淡路恵子が妊娠したことを知り、手切れ金を渡して関係を解消しようとしますが淡路恵子が許しません。最後の夜と称してナイトクラブに二人で出かけますが、そこで傷心の葉子ちゃん(ママとも喧嘩して家出中)をなぐさめようとバーのオーナーでありママの愛人でもあるミスターエロオヤジ 河津清三郎 (1908-1983)  の二人と鉢合わせ、「葉子ちゃんこそ真実の愛だ」と明ほざきますが淡路恵子暴れるわで、エロおやじと葉子ちゃんは姿を消します。


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河津清三郎(右下)ちなみに中央が草笛光子



さあこっからビックリです。 初心な葉子ちゃんはなんとエロオヤジの情婦になり、オヤジが経営する別の場末のいかがわしい系のキャバレーで働くのです。 数ヶ月後、葉子ちゃんの居場所を聞き出したママが訪ねます。 そこに現れた葉子ちゃんは別人みたいに変貌、ケバいメイク、赤髪、煙草くわえて「もう以前のアタシじゃないからね」と啖呵まで切っちゃったり。 明は明で改心して真面目に働き、葉子ちゃんと真実の愛を求めています。が、やっとキャバレーに行って再会した二人に、もはやかつてのみずみずしさはありません。 葉子ちゃんは明を叩き出し、そっと泣きながらベロベロに酔っぱらい、客のオヤジたちとたわむれ騒いで、泣いてます。

外は雪、背中を丸めて失意の明が歩くところに、まるでヤクザ映画のような曲が流れて歌声は宝田明。まるで鶴田浩二みたいな場面になってしまいます。で、明が自家用車の扉を開けるとそこには別れたはずの淡路恵子、いきなりピストル出してバキューン! 降りしきる雪の中、宝田明倒れます。 ビックリです、こんな終わり方〜 長いロングショットだったので「終」マークが出てくるのかと身構えましたが、宝田は病院に運ばれて生きてました(笑)。
そのあと病院でメイクも戻した葉子ちゃんと再会、おちょやんも最後は折れてふたりめでたしめでたし。


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司葉子♡



放蕩息子だった宝田明にまったく同情できなくて、だって「好きだ!」連発してた淡路恵子が妊娠したと知った瞬間、「堕ろせ」とか「手切れ金」とか、悪い奴なんですこれがまた。それで社長の息子だから何の苦労もなく暮らせるわけで、そんな奴が何が真実の愛やちゅうねん!と、ぼくはおちょやん的に突っ込みながら、ただ葉子ちゃんの美しさと演技力にほれぼれしつつ、昭和33年のキャバレーセット、南新宿のいかがわしいロケーションとかカラーだしたっぷり楽しめました。

中盤のナイトクラブのシーンで 美輪明宏 (当時は丸山明宏 1935-)   が挿入歌を歌ってました。背中に孔雀の羽根をいっぱい伸ばしてなんだか奇妙な歌。信じられないくらい瘦身、美男子です。youtube にもあがってないのでこれは貴重。


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丸山明宏




監督の  杉江敏男 (1913-1996)   は黒澤明、豊田四郎など名匠の助監督をつとめて1950年に監督デビュー。ラブコメディを中心に数多くの作品を撮った方です。演出力、すごい。もっともっと掘って、語りたいと思います。



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キネマ旬報ベストテン 1958 選外





スタッフ・キャスト

http://db.eiren.org/contents/02019580006.html


小気味良い優秀レビュー

https://blog.goo.ne.jp/goo1120_1948/e/33eab35b4cb23aea9b4758a4428e7884


タイトルバック by 藤城清治(影絵)に驚く方たちのサイト

https://ameblo.jp/lightandshadow7111/entry-12517126018.html







2021年 4月23日
ラピュタ阿佐ヶ谷モーニングショー「昭和の銀幕に輝くヒロイン#97・司葉子」で観賞



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ビデオありません(残念)