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やっと書いてみる。


公開後しばらくのち、二番館で鑑賞してました。 暗い、重い、息苦しくなる感覚は、先に紹介した  286「凶悪 (2013)」 監督 白石和彌 に近いし、主人公が犯罪者に転じてしまい、もがき苦しみそれでも「希望」のようなものに進んでいく様は 297「紙の月 (2014)」 監督 吉田大八  にも似ている。 つまり「悪」というものに直面する者たちの人間の「業」がこれでもかと盛り込まれているわけです。

監督は 276「フラガール (2006)」 で各賞総なめにした 李相日 (リ・サンイル 1974-)  。

舞台はとある田舎町、地元の土木業で働く主人公・妻夫木聡 (1980-)  が女性を殺して車で逃げます。かつて出会い系サイトで知り合った別の女性・深津絵里 (1973-)  と関係し、惹かれ合い、殺人者であることを告白しても二人の絆は深まり、そこに警察の追っ手が近づいて・・・と、お話の軸だけ追うと単純なんですが、田舎町ならではの閉塞感、母親の愛情をあまり受けないまま成人し、悶々とした日々を過ごす妻夫木聡の、頭が悪いし言葉が足らないからこその「イケてない」感覚と狂気、そして別の意味(田舎暮らし・彼氏なし・仕事も空虚)で悶々としていた深津絵里が、彼によって徐々に心が解放されていき、離れられなくなっていく二人の関係、観ていてヒリヒリしてきます。


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決して観ていて爽快になるような映画ではありません。妻夫木聡は人を殺したわけですから。なのにその後悔や苦しみを母性とゆうか女体、芽生える愛情でもって深津絵里に求めるのですから、正直卑怯者です。ケチなアホな男に同情する余地も本当はありません。 他のレビューを読んでいても、そんな男にどうして体を許すのか分からない、みたいな意見がありました。でもね、僕は思います、そうゆうケチな部分=一歩踏み間違えれば悪になる、或いは悪と紙一重の現実や経験って僕にはありましたし、もし自分がこうなってしまったらどうなるのだろう?かなりリアリティを持って最後までなんとか観ることができました。 悲しく、美しい映画でもあります。

そのリアリティをより強固にするために、他に出てくる役者の演技がまた素晴らしい。

冒頭に殺される女・満島ひかり (1985-)   はかつて妻夫木聡とラブホテルで関係しています。が、本当はもっとイケメンで金持ちのチャラ男・岡田将生 (まさき1989-) とも関係していて、岡田の後を追いかけてます。 妻夫木はひとり車に乗って、ガラケーにある満島の裸体の動画を見ながら、満島をストーカーみたく監視してて、満島にかなり疎んじられてます。

この満島ひかりが痛い。そう、あんな女性いるよね?と思える(同性も引くような)ワガママ勘違いのビッチ娘。が、なんとか岡田のスポーツカーに潜り込むのですが、岡田将生がもっと痛い畜生で、迫る満島を罵り運転席から蹴りだします(非情すぎ)。 その場所は真夜中の橋の上、50メートルくらい下には川が流れています。



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左:満島ひかり(演技力抜群です)



岡田将生の車が去り、取り残された満島のところに、密かに追けていた妻夫木の車(祖母に買ってもらったシャコ短のワンボックスカー:ヤンキー仕様)がきます。傷ついた満島を介抱しようとするのですが、「アンタに助けられるくらいなら死んだ方がマシ!」とばかり、ひかりちゃん、耳を疑うような罵詈雑言をぶつけます。挙句、「アンタにレイプされたと警察に訴える!」とわめき散らし、妻夫木ブチ切れて絞殺、哀れひかりちゃんを川に落として逃げるのです。

どんなにビッチ娘でも、彼女には真面目に理髪店を営む両親がいます。父親・柄本明 (1948-)   の哀しみは計り知れません、相当に自失し次に第一容疑者として拘留された岡田将生の後を追い(妻夫木の行方がわからないので)直接挑み、謝罪を要求しますがチャラ男なので逆に痛めつけられたりします。


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左:岡田将生 右:柄本明




妻夫木にも彼を実の息子のように面倒を見て、愛情をかけていた祖母・樹木希林 (1943-2018)  がいます。 希林さんは、事件前から田舎町に訪れた、松尾スズキ (1962-)  による言葉巧みな悪徳商法に引っ掛かっていて、高額な負債とその返却をスズキに迫りますが残酷に脅されどうしようもない日常がある中で、「息子(孫)は無実」だと信じ、群がるマスコミ各社にもみくちゃにされる毎日です。 この一見、本編とは関係ないようなエピソードが丁寧に活写されているところもこの映画のすごいところです。老人の切なさ、松尾スズキも「悪人」岡田将生も「悪人」それらの積み重ねが、監督の演出に見事に調和し、緊張感を生んで迫ってきます、ほんと観ていて心がエグられるような感じ。



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手前:樹木希林❤️



妻夫木聡と深津絵里のアンサンブルがものすごく良い。 逃げ切れるわけがない逃避行の中で高まる絆、愛情。深津絵里はすっぴんメイクでも美しいね〜。恋愛経験がなく、日常に虚しさを感じていた絵里ちゃんは、自首を決意する妻夫木を泣いて止め、さらに逃げます。 さあどうなる? 是非の鑑賞をおススメします!



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深津絵里


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妻夫木聡






キネマ旬報ベストテン 2010 第1位

















2012年ごろ 二番館で鑑賞






悪人
樹木希林
2013-11-26








悪人 新装版 (朝日文庫)
吉田 修一
朝日新聞出版
2020-12-07